発電所から家庭や工場へ電気が送られるとき,電線の電気抵抗によって送電ロスが生じる。その量は総発電量の約5%に達し,日本全体で原子力発電所数基分の電力が失われているとされる。超伝導体を用いると,この損失をゼロにできる。超伝導とは,金属や合金の電気抵抗が,ある温度以下でゼロになる現象である。しかし,超伝導に転移する温度が非常に低いという問題がある。
本研究では,より高い温度で超伝導になる新物質を開発する。これまでに,鉄系超伝導体としては2番目に高い摂氏マイナス226度(絶対温度47ケルビン)で超伝導に転移する物質を開発した。さらに,ランタンやプラセオジムなどのレアアースの含有量を従来の25%から5%へ削減し,コストを抑えることに成功した。今後は,より高い温度,できれば室温で超伝導を示す物質を開発することが目標である。